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それは、晴れ渡った極楽のある昼下がりのことでございました。
お釈迦様がいつものように蓮の花が咲き乱れる池の周りを散歩しております。

「...ぼっけえヒマじゃのう、そーゆやぁ下はどがいしよるんの、いっちょ覗いちゃるかの」

お釈迦様はたわむれに蓮の葉の間からそっと下界の様子をご覧になりました。

「おほほ、やっとるやっとる。いつ見てもここは、ばりおもろいの」

池の水面を通して見えるのは、恐ろしい地獄のさまです。

お釈迦様は蓮の葉をクリックしながら、地獄チャンネルをザッピングします。やがて十一ある中の一つの地獄で、ふとその手をおとめになりました。

そこは血の池地獄でした。血の匂いが色濃く立ち込める薄闇の中、たくさんの罪人たちが口と言わず、鼻と言わず、体中、ありとあらゆる穴という穴から血を噴き出しながら、海ほども大きくて深い血の池を浮いては沈み、沈んではまた浮いてを繰り返しています。

そんな中でひときわ大声で泣き叫んでいる者がおりました。天下に聞こえるか聞こえないかの小悪党・コミカです。

「わははは、アイツの顔おもろいのぉ」

その苦しむさまがあんまり面白いので、

「はて、このコミカというやつはどんなクソ野郎じゃろう」

お釈迦さまは、「VJコミックカット(※1)」のキーワードで、極楽のデータベースをググってみました。10Tバイトばかりのそのデータは案の定、薄汚れた記憶ばかりです。

かつてコミカは「作品」と称して、インターネットや地上に溢れる電波を悪用して毒にも薬にもならない映像動画を作り、それを罪も無い人々に無理やり見せては悦に浸っていました。そんな映像は法律に触れる事を知りながら、コミカはまるでそんなことに構いません。さらに悪いことに自分を「ゲージツカ」と呼んで、それはそれは自堕落な毎日を送っていたのです。そうして「ゲージツ」で食えないことを言い訳に、人に言えないような所に出入りしては汚い金を稼いでおりました。

「おお、コミカよ。さえん人生じゃ。わやくちゃな人生じゃ。ほいじゃけぇ、そがいにしごされるんじゃ」

しかし、次の瞬間、お釈迦様は「ほう...」と一言もらされました。コミカの記憶をまさぐるうち、とある光景に行き当たったのです。


それは、月の冴えたある夏の夜のことでございました。コミカがいつものようにファミレスへ行こうと歩いております。

「あーあ、ヒマだな、ビールでも飲みながら、新しいネタひねろ」

また悪事を思いついたコミカが早足で夜道を急いでおりますと、ふと足元の気配に気付きました。

「あ、ミミズ」

昨日あった地震のせいでしょうか、こんな真夏の夜、アスファルトの上を一匹のミミズが苦しそうにのたうっています。

「うわ、気色わる...。でもこれ、踏み潰されたりしたら、帰り道、もっと気色わるいな...」

なんと、かの小悪党・コミカはなんの気まぐれか、道端に落ちた木の葉を拾って、ミミズをその上に這わせました。ミミズは驚いて、木の葉から逃れようとしては、何度も何度もアスファルトの地面に転げ落ちます。コミカはコミカで額に汗をにじませながら、それでも何度も何度も木の葉でミミズをすくい上げます。

「ああ?、もう!早くビール飲みてえのに...」

時々、我に返るコミカですが、葉っぱをつまんだまま腰を下ろした以上、何もせずに立ち上がるのもおっくうです。とにかく、その時は「このミミズを木の葉に乗せる」、その変な使命感だけがコミカの心を満たしておりました。ようやくミミズが植え込みの土の上に戻ることが出来たのは、月が少し天頂を傾く頃でございました。


「ほほう、なんと、あんなクソ野郎でも、このまんまん様(※2)の心が分かると見えるの」

そいう言って、お釈迦様はにっこり微笑まれ、コミカの記憶からログアウトされました。

「どれ...」

再び蓮の花が咲き乱れた池のほとりに立ったお釈迦様は、岸辺の土に一匹のミミズを見つけ、それをつまみ上げました。そしてミミズを蓮の葉の間にかざすと、不思議なことにミミズはにょろにょろと伸びはじめ...


その頃、血の池地獄は大騒ぎでした。真っ暗で天井さえしれない遥か上空から、なんと巨大な極太ミミズがヌラヌラと垂れ下がってきたのです。

「うーわー!」

その巨体に押しつぶされる者、ヌラヌラの粘液にからめ取られる者、さらにミミズはその大きな口で血の池に満たされた血を罪人たちごとすすり上げているのではありませんか...。それはまさに地獄絵図でございました。


その光景を見ていたお釈迦様は大爆笑。蓮の池のほとりで腹を抱えて、のた打ち回っております。

「あーあ、ほんまおもろいのぅ」

やがて、お釈迦様は目尻の涙をぬぐいながら立ち上がり、また蓮の花が咲き乱れた池のほとりをあてもなく歩き始めました。その白い花は、お釈迦様の御足のまわりに、ゆらゆらとうてなを動かして、そのまん中にある金色の蕊からは、なんとも言えないよい匂いが絶え間なくあたりへ溢れております。極楽ももう午近くなったのでございましょう。


※1 VJ=Visual Jackの意

※2 仏様の意

COMIC CUT

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VJ COMICCCUT:1972~
 
VJ:Visual(視覚)・Jack(乗っ取り)の意
 
Mail:toraremix@hotmail.com
 
 
1995年、在学中より某映画監督に師事するも僅か半年で破門。のち某TV局で、にわかジャーナリストとなるも体育会系的現場と左翼思想教育により、脳に深刻な損傷を被る。社会復帰をかけ、TVゲーム会社でサラリーマン生活を送るも、折からのアルコール依存により2年足らずで失踪。2000年より、映像パフォーマーとして...、映像パフォーマーとして...。先生...、今日はもうこの辺でいいですか? テレビゲームと漫画とTVでニートを煮しめたら、こんなに大きくなりました。...妄想が。 大丈夫、僕はきっと大丈夫。

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